STRATEGY NOTE

お金

働けなくなるのが怖い人へ。メンタルを壊す前に作る「生活防衛の設計図」

「休んだほうがいい」と思っても、家賃や生活費を考えると休めない。

通帳の残高が減っていく場面を想像すると、体調より仕事を優先したくなります。まだ動けるうちに働いておこう。今の案件だけは終わらせよう。そうやって、休む判断を何度も先送りしてしまうんですよね。

ぼくはフリーランスとして最高月収が150万円ほどになった時期の後にも、再び働けなくなりました。多忙だけが原因だったとは考えていません。ただ、収入が多いことと、この先も働き続けられることは別でした。

働けない期間への備えは、貯金額だけで決まりません。最低限必要なお金、収入が止まる期間、使える制度、減らせる支払い、相談先。この5つを見えるようにすると、「休んだら即終了」というぼんやりした恐怖を、確認できる問題へ変えられます。

どうも。プロの引きこもり、まつながです。

この記事では、体調が悪くなったときの生活防衛を、会社員とフリーランスの違いも含めて整理します。制度の説明は2026年9月28日時点の公式情報を確認しています。利用条件は加入先、働き方、世帯の収入などで変わるため、最終的には勤務先、保険者、自治体などの窓口で確認してください。

お金の不安が大きくなるのは「見通しがない」から

「働けなくなるのが不安」と言っても、中身は一つではありません。

  • 毎月いくらあれば生活できるか分からない
  • 給料や売上が、いつからいくら減るか分からない
  • どの制度を使えるか分からない
  • 申請してから入金されるまでの期間が分からない
  • 誰へ相談すればよいか分からない

これらを全部まとめて考えると、「とにかく働き続けなければ」という結論になりがちです。でも、必要なのは根性の追加ではなく、不安の分解です。

まずは「一生分のお金」を用意しようとしなくて大丈夫。最初に確認するのは、働けない1か月をどう生き延びるかです。

1. 通常生活費と「最低生活費」を分ける

最初に、直近の銀行口座とカードの明細から、毎月の支払いを書き出します。

ここで作るのは、極限まで切り詰めた生活費ではありません。療養しながら生活を維持するための最低生活費です。

分類 確認するもの 考え方
住まい 家賃、住宅ローン、管理費 生活の土台なので最優先で確認する
基本生活 水道光熱費、通信費、最低限の食費 無理な削減で体調を崩さない
医療 診察、薬、通院交通費 療養に必要な費用として残す
社会保険・税 健康保険、年金、住民税など 払えないときは放置せず相談する
仕事 ソフト、サーバー、会計など 休業中も残す必要があるか分ける
その他 サブスク、娯楽、臨時支出 停止・縮小・維持を決める

ポイントは、すべてを削減候補にしないことです。

食事、医療、連絡手段など、生活や回復を支える費用まで削ると、休むための家計が新しいストレス源になります。自分だけで決めにくい支出は、家族や支援者と相談して構いません。

すでに定期的な支払いを整理したい場合は、先に固定費を見直す5ステップを使ってください。

2. 貯金額ではなく「何か月もつか」を計算する

最低生活費が分かったら、現在使えるお金で何か月暮らせるかを計算します。

基本の考え方は、次のとおりです。

使える預貯金 ÷ 1か月の不足額 = 働けなくても生活を維持できる月数

たとえば、説明用の数字として、最低生活費が月18万円、休業中にも月6万円の収入があるなら、不足額は月12万円です。生活費に使える預貯金が72万円なら、単純計算では6か月になります。

ただし、制度の給付金は申請直後に入るとは限りません。税金、年払いの保険、家電の故障など、毎月ではない支出もあります。そのため、給付を受けられる可能性があっても、入金日が確認できるまでは「すぐ使えるお金」と同じ扱いにしないほうが安全です。

逆に、預貯金が少ないと分かっても、それだけで「休めない」と決める必要はありません。次に、収入の空白を小さくできる制度と相談先を探します。

3. 会社員は、退職を決める前に傷病手当金を確認する

協会けんぽや健康保険組合の被保険者が、業務外の病気やケガで仕事に就けず、給与を十分に受けられない場合、傷病手当金の対象になることがあります。

協会けんぽの案内では、主な条件は次の4つです。

  1. 業務外の病気やケガの療養である
  2. 仕事に就くことができない
  3. 連続する3日間を含み、4日以上仕事を休んでいる
  4. 休業した期間の給与が支払われていない。支払いがあっても傷病手当金より少ない場合は、差額が対象になることがある

支給開始日から通算して1年6か月が支給期間です。1日あたりの金額は、原則として支給開始前12か月の標準報酬月額をもとに計算されます。詳しい条件と計算方法は、加入先と協会けんぽ「傷病手当金」で確認できます。

ここで注意したいのは、退職すれば自動的に受け取れる制度ではないことです。退職後の継続給付にも、退職前の加入期間や退職日時点の状態などの条件があります。「もう限界だから、先に退職届を出そう」と動く前に、勤務先の担当者と加入している健康保険へ確認してください。

仕事や通勤が原因の病気・ケガは、健康保険の傷病手当金ではなく労災保険の対象になる可能性があります。どちらに当たるか分からない場合も、自分だけで決めずに勤務先や労働基準監督署などへ相談します。

4. フリーランスは「会社員と同じ保障がある」と考えない

フリーランスや個人事業主が加入することの多い国民健康保険では、傷病手当金は必ず実施される給付ではありません。厚生労働省の資料では、国民健康保険の傷病手当金は、実施の有無や内容を保険者が決める任意給付とされています。

つまり、会社員向けの解説を読んで「自分も給与の約3分の2が入る」と計算するのは危険です。自分が加入している市区町村の国民健康保険や国民健康保険組合へ、利用できる給付があるか確認します。

制度で埋まらない部分は、次のように分けて備えます。

  • 仕事を完全に止めたときにも発生する事業経費
  • 自分が動かなくても入る継続収入の有無
  • 納期や仕事量を小さくできる契約の有無
  • 預貯金で確保する期間
  • 民間保険に加入している場合は、給付条件と免責期間

休業中にできる仕事を無理に探す、という意味ではありません。治療と休養が必要なときは、まず体調を優先します。小さく働く選択肢は、医師の判断や自分の状態を無視して使うものではなく、回復後の復帰ルートとして考えます。

5. 医療費と社会保険料は「払うか、滞納するか」の二択ではない

治療費が高額になる場合は、高額療養費制度を使えることがあります。1か月に医療機関や薬局の窓口で支払う自己負担が上限額を超えた場合、その超えた額が支給される制度です。上限は年齢や所得などで異なり、制度改正もあるため、最新情報は厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」と加入先で確認してください。

国民年金保険料は、収入の減少や失業などにより納付が難しい場合、申請して承認されると免除または納付猶予を受けられることがあります。失業・倒産・事業の廃止などには特例もあります。対象条件や将来の年金額への影響を含め、日本年金機構「国民年金保険料の免除制度・納付猶予制度」で確認できます。

国民健康保険料・税の減免や納付相談は、自治体によって条件が異なります。住民税なども含め、支払いが難しいと分かった時点で、納付書に書かれている窓口へ相談します。

申請できる制度があっても、何も手続きせず支払いを止めることとは違います。「払えないから見ない」は、未来のぼくへ高難度クエストを丸投げする行為になりがちです。しんどいときこそ、一人で抱えず窓口につなぎましょう。

6. 離職後すぐ働けないなら、失業給付の受給期間も確認する

雇用保険の基本手当は、働く意思と能力があり、求職活動をしている人の再就職を支える制度です。病気やケガで、今すぐ働けない状態なら、そのまま基本手当を受けられるとは限りません。

一方、離職後に病気やケガなどで30日以上働けない場合、受給期間を延長できることがあります。原則の受給期間は離職日の翌日から1年間ですが、働けない日数を加えられ、延長できる期間は最長3年間です。手続きの条件はハローワーク「基本手当について」で確認できます。

「失業給付があるから、しばらく休める」と先に計算せず、現在働ける状態なのか、受給期間延長の対象なのかをハローワークへ相談してください。

7. 家賃が危ない段階では、早めに生活の相談窓口へつながる

すでに家賃や生活費の支払いが難しい場合、家計の工夫だけで解決しようとしないでください。

生活困窮者自立支援制度では、生活に困りごとがある人を対象に、仕事、住まい、家計の立て直しなどの相談支援を行っています。家計改善支援では、家計の見える化、支援計画、関係機関へのつなぎ、必要に応じた貸付のあっせんなどがあります。

離職・廃業や、本人の責任・都合によらない収入減少などで住まいを失うおそれがあり、収入・資産などの要件を満たす場合は、住居確保給付金の対象になる可能性もあります。相談先は最寄りの自立相談支援機関です。制度の概要は厚生労働省「生活困窮者自立支援制度」で確認できます。

相談は、すべてを失ってから使う最後のカードではありません。支払いが遅れそうだと分かった段階で、使える選択肢を確認するためのものです。

働けない期間の「生活防衛シート」を作る

必要な欄だけコピーして使う

下のシートをスマホのメモなどへコピーしてください。分からない欄は「未確認」のままで大丈夫です。今日は「いま困っていること」と「最初に聞く相手」が一つ決まれば十分。正確な金額をそろえるために、相談を先延ばしにする必要はありません。

すでに生活費や支払いに困っている場合は、シートを完成させる前に、住んでいる地域の相談窓口や該当する支払い先へ相談してください。生活全般の相談先を探すときは、厚生労働省の生活困窮者自立支援制度の案内も入口になります。

このシートは、制度を利用できるか、何か月休めるかを判定するものではありません。分かっていることと、これから確認することを分けるためのメモです。

生活防衛シートにまとめる四つの確認欄。療養に必要な生活費、手元資金と毎月の不足額、制度の条件と入金時期、相談先。支払いが難しいときは全項目を埋める前に相談する
図1:空欄を一つずつ確認するためのマップです。制度の利用条件は本文の公式情報と、加入先・窓口で確認してください。

コピー用シート

生活防衛シート
記入日:
空欄は「未確認」でOK。概算は「約」と書く。

【1.療養中も必要な生活費】
住まい・食費・光熱通信費など:月 約 円
通院・薬・療養に必要なもの:月 約 円
上の合計:月 約 円
年払い・臨時支出と次の支払日:

【2.手元資金と収入の変化】
いま生活費に使える預貯金:約 円
給与・売上が減る時期:
今後入る予定の収入/入金日:
その収入は確認済みか:
未入金の給付・売上は手元資金に含めない。

【3.制度と支払いの確認】
加入している健康保険:
確認したい制度・支払い:
いま分かる期限/困りそうな時期:
利用条件・期限を聞く窓口:
給付なら入金までの期間も聞く:
確認した内容/確認日:
停止・変更を検討できる支出:
療養のために残したい支出:

【4.最初の連絡先】
最初に相談する人・窓口:
連絡先/受付時間:
聞きたいことを一つ:
次にすること:

「未確認」を残した記入例

たとえば、こんな状態で相談を始めて構いません。以下は架空の例です。

  • 確認したいこと:収入が減った場合の年金保険料の支払い
  • 期限:納付書で確認する。いまは未確認
  • 最初の連絡先:納付書に記載された問い合わせ窓口
  • 聞きたいこと:免除や猶予など、相談できる手続きはあるか
  • 次にすること:納付書を手元に用意して、問い合わせ先と受付時間を確認する

「制度の名前まで調べてから電話しなきゃ」と思うと、電話の前に一日が終わります。まずは、困っていることを伝える準備からで大丈夫です。

最初に聞く一文も用意しておく

連絡するときは、たとえば次のように切り出せます。自分の状況に合わせて書き換えてください。

体調の問題で収入が減る見込みがあり、生活費と支払いが心配です。まだ整理できていない項目もありますが、相談できますか。こちらの窓口でよいか、確認に必要なものは何かを教えてください。

すでに収入が減っている場合は「減る見込み」を「減っています」に変えます。支払期限が分かる場合は、その日付も伝えましょう。

勤務先や保険者には給与・休業・給付について、支払い先には該当する支払いについて、自治体などの相談窓口には生活全般について。相手が扱う範囲に合わせて、聞きたいことを一つ選びます。

保存・共有するときの注意

このブログにシートを送る必要はありません。自分のメモとして保管し、人に見せる場合は相談に必要な部分だけを共有してください。口座番号、暗証番号、マイナンバーはこのメモに書かなくて構いません。正式な申請で必要になる書類は、窓口の案内を確認します。

生活費や働き方が変わったら、確認日と内容を更新します。空欄があっても、次に聞くことが分かれば、このシートはもう役に立っています。

今日やるなら、通帳を見る前に3項目だけ書く

疲れているときに、過去1年分の明細と制度を一気に調べるのは無理ゲーです。

まず、次の3つだけ書いてみてください。

  1. 住まいと医療を含め、1か月に最低いくら必要そうか
  2. いまの働き方は、会社の健康保険か国民健康保険か
  3. 体調が悪化したとき、最初に連絡できる人・窓口はどこか

正確な金額が分からなければ概算で構いません。制度名が分からなければ「勤務先へ聞く」とだけ書きます。

生活防衛は、二度と困らないほどのお金を貯めて完成するものではありません。困ったときに何を確認し、誰へつながるかまで決めておくことも、立派な備えです。

「働けない自分にならないように頑張る」だけではなく、働けない時期が来ても戻れるルートを作っておく。

その設計図があれば、休むことは人生からの脱落ではなく、生活を立て直すための選択肢になります。

お金以外にも、いま困っていることから相談の準備をする

お金の見通しを整理しても、体調をどう伝えるか、仕事をどこまで受けるかが残ることがあります。今の困りごとに合うものだけ、次の確認に使ってください。

仕事量の見直しは、治療や休養の代わりではありません。体調が悪いときに、働ける量を一人で決めるための案内でもありません。医療機関などへ相談したいことがある場合は、シートやメモを完成させる前でも相談してください。


サムネイル写真:olia danilevich / Pexels(Pexels License)。記事テーマに合わせたイメージ写真であり、本人の使用環境や体験を撮影したものではありません。